メニュー

奇人なりの生き方「歌舞伎町シャーロック」

シャーロックホームズのオマージュ作品は多いと思う。一回、原作を読んでみるのはありかもしれない。映画化されたものを見たことがあるので、それを前提知識に考えてみる。

#01「はじめまして探偵諸君」

#01「はじめまして探偵諸君」

  • 発売日: 2019/10/12
  • メディア: Prime Video
 

 

話は名探偵コナン方式で短編ごとに進んでいく。そして、原作シャーロックホームズでお馴染みの、犯罪組織の親玉モリアーティ教授とシャーロックホームズ探偵の戦いに移っていく。姿と形は全く同じではないけれど、内面に抱えているものは似ている。

中盤以降のモリアーティとシャーロックホームズの掛け合いがこの作品で描きたかったものだと思う。

 

サイコパスなりの生き方と幸せ

シャーロックとモリアーティは賢く推理力に優れている。相手がどのように考えているのか感じているのか推理することができる。しかし、実際には自分は感情として共感することはない。共感することが無ければ人の痛みが分からない。端的に言えば二人はサイコパスだ。

シャーロックはそれが分かっていたのか、落語を身に着けることで人間らしさについて学ぼうとしていた。そこにワトソンという人間的魅力を兼ね備えた助手ができて、人としての在り方から外れることはなかった。一方で、モリアーティは自分を化け物だと恐がり嫌う人間に囲まれて生きてきた。それによって歪んでいた思想が元に戻ることがないままにシャーロックホームズとは異なった周囲を殺略に巻き込むような生き方を選んでしまう。

この物語の鍵は、そんなサイコパスな二人に人間らしさを教えてくれたワトソンだったり、モリアーティの亡き母と妹だろう。その存在によって生き方に選択肢が現れた。

この作品が描いているのはこれから起きるであろうサイコパス二人の闘争物語準備でありながら、サイコパスによる理論的な良心と、サイコパスにある自己理解の苦しみだ。

 

そして、これからもシャーロックとワトソンによるコンビは生きていくのだ、、、、という後を想起させるような物語だった。

 

モリアーティの生き方

モリアーティの生き方について掘り下げてみる。

モリアーティは共感することができない。そのため、人の痛みは理解できてもそれが悪いものだと直感として分からない。だから、父から嫌われていた。

母と妹からは大丈夫だと教わった。けれどモリアーティの内面では何も満たされることが無かった。愛情を実感しづらかったのかもしれない。自分の感情も他者の感情もシャットアウトして考えたり行動できるのがサイコパスだ。一方で意図して得ることもできるはずだ。

このまま成長して行くと、周囲とのズレを感じながらも彼は母と妹の愛情を知り、人の愛し方に興味を抱いて人として生きることが出来たのだろう。

 

けれど悲劇は起きた。

モリアーティは池に落ちた雷を見た。そして池を見ると、池の中にいた鯉が全滅した様子を見て美しいと歓喜する。そして風呂の湯に浸かっている母の元へ、コンセントをさしたドライヤーを投げ入れる。母は感電死した。モリアーティは美しいと歓喜する。しかし同時に涙していた。その理由を彼は美しいからだと錯覚していたが、本人自身が悲しいからだと理解していなかった。

自分の感情との付き合い方を助けてくれる人や打ち明けれる人が周囲にいなかった。

青年期になるまで殺人を繰り返していた描写もないので、成長するにつれて感情が理解できないなりにも周囲との合わせ方を学んでいったと見れる。

そんな中で唯一の心の柱だった妹までも切り裂きジャックに殺されて亡くしてしまう。その時に深い喪失感に駆られた。そして復讐へと彼を導く。

 

最終的に殺人犯を追い詰めていき殺人犯に手をかける。その時にモリアーティは自分が嬉しがっていることに気づく。その理由は殺戮が楽しいからだと錯覚する。人に手をかけたのは衝撃的だった。それがトリガーとなった。母を死なせてしまったのもずっと心の奥底でトラウマとして眠っていた。犯人を追い詰めるまでの推理過程の快楽も一緒くたにして、手の混んだ殺戮こそ自分の生きがいだと錯覚する。こうして凶悪な犯罪者が出来上がってしまった。

 

モリアーティが凶悪な犯罪者になった理由は、自分の語る物語がズレていたからだと思える。サイコパスは話をするのが上手く嘘を付くのも上手いと言われている。そして、巧妙に作った嘘を自分自身も信じ込んでしまうという話がある。モリアーティは自分の物語が脱線していた。それを元に戻してくれる人も居ないまま、自分の物語に疑問を抱かないままに進んできた。その結果なのだと思う。

そして収容施設にて、モリアーティはゴロツキに催眠をかけて自分の手駒にする。そして、殺し屋を送った父への復讐とシャーロックとの推理対決への準備をしているのだった、、、

モリアーティが進んでいる殺人鬼への線路を変えるためには、感情のスイッチが入った時に、その理由が何なのかを教えてあげる人が側に居ないと無理かもしれない。