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「白夜行」隠れたテーマを探してみた

 
東野圭吾が原作の映画やドラマは観たことがある。けれど、小説を最後まで読んだことは無かった。ドラマや映画で観ている限り、彼の作るシナリオは面白そうだったので読んでみた。
白夜行 (集英社文庫)

白夜行 (集英社文庫)

 
読んだ直後の感想
ふたりが、特に雪穂が人間だと思えなかった。そんな感想を抱いた。
ふたりが何を目標にして、何に取り組んで生きているのか。分からなかったな。お金なのだろうか。富と名誉と権威だろうか。結局は最後に雪穂が手にはしている。
けれど、その後に何を求めているんだろう。彼の生きがいは何で、彼女の生きがいは何なのだ。
 
扱っている内容はドロドロしている。ただ、切り取っている描写が綺麗な面ばかりで、真相は見えない。じれったい。
映画化やドラマ化では、時間の関係で裏描写もされていると聞いた。小説では描写がないので好奇心と不安を掻き立ててくれる。それぞれ別の面白さがあると思う。
 
読了した直後は何も感じなかった。そっか。そうだったんか。恐いな。という具合で、あっけなかったかな。
特殊な表現方法
この物語が面白いのは視野を限定して描写することにあると思う。表シナリオの描写だけでも良かった。罪を重ねて罪を消すふたりの男女の物語だ。
けれど、この本での主役であるふたりは周囲の人物の目を通してしか分からない。本人の心情描写が地の文で出ることもない。敢えて本人以外の解釈を重ねることで人物像を幻想的なものにしている。
 
野暮な疑問点について
  • 寺崎は本当に運転中の事故死だったのか。仕組まれたことなのか。
  • 雪穂の母は自殺だったのか。偶然なのか。
  • 叔母の庭に死体が埋められているけど、どうやって?気づかれないのか?臭いは?
  • ふたりの連絡手段は何だったんだろう。図書館とか?大人になっても同じ場所ではなかろう。

ここら辺を知らなくても、作品が醸し出す雰囲気を味わうには十分だったし。考え込まなくてもいいかも。

 

物語の見方を変える疑問について
  • 幼い頃は分かるけれど、桐原は雪穂のために動き過ぎていないか。雪穂は手を染めずに桐原が人を何度も殺している。恋心があったのか。
  • 桐原は自殺しているけれど何故なのか
  • 雪穂は桐原の死をどのように見ているのか。安心しているのか。それとも嘆いているのか。目の前で死ぬのを目撃して動揺しないのは?
見方によっては、桐原が雪穂の特性に惹かれてしまった被害者にも見える。自分に惚れた桐原を晩年は利用し続けていたという説だ。
 
続編だと言われている「幻夜」では、同じように登場人物がふたり出てくるんだけど、それでも同じように美冬という女性が男性側を手のひらで転がしている形のようだ。
 
つまり、最後に桐原が自殺してしまうことが雪穂の恐さを引き立たせた物語となる。
 
雪穂の生きがいを想像するなら、貧しかった境遇が起こした悲劇に対するお金への執着。そして、自分が陥った悲劇を理由にした娯楽だろうか。雪穂がやろうとしているのは、お金や立場を利用した人狩りのように思えた。後半での、血の繋がらない娘に対する犯罪を利用したマウントが優越感に浸るために思えた。
 
隠れた命題「美貌と優越感」
この雪穂の優越感こそが、この物語の本軸だと解釈した。そのために周囲は犠牲になっていく。そして、雪穂は人を惑わすような魔性の女へと変化していく。美貌と優越感が隠れた命題かな。
 
雪穂の透き通った目と亮司の黒く濁った目の対比で、両者の精神的な強さと弱さを表している。そして、時間が経って捕食されたという形かな。読み手には、桐原と雪穂の相思相愛と解釈させておく。本当は、、、と。
 
この解釈を書いてて恐くなった。解釈を進めることで物語の深みを更に引き出せるのは珍しいかもしれない。作品として面白かった。