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「十角館の殺人」犯人の強靭なメンタルと体力

 

前回に続いて2回目の推理小説を読んでみた。

十角館の殺人 <新装改訂版> (講談社文庫)

十角館の殺人 <新装改訂版> (講談社文庫)

 
時代背景が古いので考慮して読んでいった

改訂版を出すにあたって最後に説明がなされてたように、バブル期に書かれた作品でしたね。

「女性はお茶を入れる」とか。登場人物の学生ほぼ全員が煙草を吸ってるとか。サークル飲み会で急性アルコール中毒で死人が出るとか。インターネットが存在していないとか。タイプライターが流行りだとか。価値観が前にさかのぼります。DNA検査と言っても制度が低いのだろうなと考えたりもしたかな。

冒頭でギャップを感じる文章が散りばめられているので、現在とは異なる世界観に入っていく感じで読んだかな。ここで諦める可能性もあったけれど、推理ジャンルマイブームに乗って読み進めていった。

スリードを誘う文章に引っ張られた「叙述トリック

紅さんが怪しいのかなと疑ってみたり。青司がまだ生きていて犯人なのかなと疑ってみたり。それとも学生の中に犯人が紛れているのかなと思ってみたり。会話の文章や描写の移り変わりによって、誰が犯人なのかをミスリードしやすいように誘導させる文章は面白かったです。

第1被害者であるオルツィが指輪をはめていたことを思い出せなかったのが悔しい。オルツィが亡くなった青司の娘と仲が良かった事は、はじめにオルツィが被害者になった理由と関係しているとは疑っていた。そうなると、学生の事情を知っている中に犯人がいることになるとは推理できていた。

実際に起きたことから自分なりに絞っていくのが、「叙述トリック」にハマらないための工夫なのかな。登場人物の誰一人として正しい推理を行っていなかったのだし。

犯人を当てるのは難しい

 序盤でも圧倒的に怪しい人物がいた。なぜか病気なのに館に来ているし。館を借りた主だし。かつ旅行のキッカケを作っている。そして泊まった数日後に、人が殺されるような状況だとメンタルが揺れて病状が悪化してもおかしくないが元気になった。

どう考えても怪しいんだけど特に証拠が無かったからな。動機についても、犯人だと分かった後に初めて追加された情報だった。推理して犯人を当てる楽しみ方をする作品では無かったんだろうな。

犯人の強靭なメンタルと体力

犯人が地の文を用いて犯行について語るシーンがあるのだが、結構ハードなことをしている。細身の身体で、脱水症状に見舞われる中で、ろくに睡眠時間を取ってない中で、重労働して、音を立てずに部屋に忍び込みまくって、よくも疑われずに全員殺せたなと感嘆する。さすがに無理があるくない?と思ってしまった。アリバイ工作であるバイクの運転中に、疲れで意識を失って事故って死んでもおかしくないと思えた。

殺し方を考えるのも結構に行き当たりばったり感も有ったし。うーーん。幸運が重なって犯行が成立したと言うのも強かったように思えた。

幸運と言えば、ラストの海辺に流れ着いた瓶も"運"と言えるのかもな。その点で考えれば、復讐殺しの焦燥感を伝えたかった作品としては一貫性があって楽しめる本と言えるかな。やってることはハードだけどな。